ウツの人は、怠けているわけじゃない。
意欲も出ないし、何の能力も発揮できてない。
ウツ状態になってるときって、怠けてるように思えてツラいですよね。
自分でも、なぜ意欲が出ないのか、わからない。
だからこそ、余計に悩んでしまう。
仕事や家事で、いっぱいいっぱいになってしまう場合も同じ。
周囲からは、「要領が悪いんじゃないの?」と思われてしまう。
自分ではがんばってるつもりなのに……。
そんな悩みに答えをくれるのが、「欠乏の行動経済学 いつも時間がないあなたに」
あなたは完全に徹夜したあと、自分がどれだけ冴えていると思うだろう? 翌朝、どれくらい頭が働く? 私たちの研究が明らかにしたところでは、貧しい人たちにとって、金銭にまつわる心配が生じることのほうがひどい睡眠不足になるより、認知能力を大きく損なわれるのだ。
(by 欠乏の行動経済学)
頭が働くワケがないんです。
意欲の問題ではないことを心に刻めば、自己嫌悪から脱却できます。
仕組みを変えるのが第一優先
コックピット問題
昔、パイロットがいつも同じミスを起こし、事故が相次ぐことがあったそうです。
さまざまな改善が試されました。
- パイロットの注意力を訓練する
- 優秀なパイロットを育成する
- 採用時に、きちんと試験をおこなう
ただし、どんなに教育を受けさせても、注意をうながしても、やはりミスは続いたそうです。
どんなにうまく訓練したり選抜したりしても、パイロットはミスを犯すものであり、まぎらわしい状況に置かれればなおさらだ。
(by 欠乏の行動経済学)
問題は、「人」ではなく「仕組み」
ミスが頻発していた原因は、実はこれ。
そもそもコックピットが、まちがいを起こしやすい設計だった
現在の飛行機がはるかに安全なのは、翼やエンジンのつくりが良くなっているからだけでなく、人的ミスへの対処が改善されたからでもある。
(by 欠乏の行動経済学)
人の「注意力」に頼るのには限界があります。
それよりも、設計を変えてしまうほうが確実で簡単。
でも、私たちはそのことを理解していません。
コックピット内を見るのではなく、問題は人にあるのだと決めてかかる。問題は理解不足か意欲の欠如なのだと思い込む。そのため、教育やインセンティブ強化の試みでフォローする。
(by 欠乏の行動経済学)
常に批判してませんか?
- 頭が悪いせいだ
- 意欲(やる気)が足りないからだ
- 怠けているんだ
改善策を考えるより、人を批判するほうがラクだからですよね。
そんなときは、そもそもの「問題」を見つめ直すことが必要。
「欠乏心理」について理解してみると、役立ちますよ。
欠乏心理とは
自分の持っているものが、必要な量より少ないと感じること
欠乏心理が起こす悪循環
- お金に欠乏すると、
- 借金にとらわれ、さらにお金がなくなる
- 時間に欠乏すると、
- やるべきことが積もっていき、さらに時間がなくなる
- 人付き合いに欠乏すると、
- 他人との会話に慣れてないため、さらに孤独になる
欠乏は、処理能力に負担をかける
欠乏はつねに人をトンネルへと引き込むことによって、その処理能力に負担をかけ、その結果、人のごく基本的な能力を抑制するのだ。
(by 欠乏の行動経済学)
処理能力とは、たとえばこんな能力。
- 計算能力
- 注意力
- 決断力
- 計画力
- 誘惑に抵抗する能力
- 学力としての知能
決して、頭が悪いわけじゃない。
欠乏によって、これらの処理能力が劇的に落ちてしまうのです。
「気の持ちよう」レベルではないことが、心理学の実験で明らかにされたのです。
「締め切り効果」というポジティブな側面もある
「締め切り効果」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
時間に締め切り(制限)があったほうが、成果が出せるのも事実です。
「欠乏が集中力を増す」という利点ですね。
「集中力」は、トンネリングを引き起こす
集中する力は物事をシャットアウトする力でもある。欠乏は「集中」を生むと言う代わりに、欠乏は「トンネリング」を引き起こすと言うこともできる。つまり、目先の欠乏に対処することだけに、ひたすら集中するのだ。
(by 欠乏の行動経済学)
トンネルの外の景色が、遮断されること。
目先の欠乏に対処することだけに、ひたすら集中する状態。
たとえばこういうこと、ありますよね。
- ひとつのことを悩んでいると……
- 他のことが考えられなくなる
- 誰かにイライラしてると……
- 他人の長所が見えなくなる
- 職場でストレスを受けると……
- 子どもに八つ当たりしてしまう
ひとつの目標が、他の目標を抑制してしまう。
だから、大事なことを見落としてしまったり、大きな事故につながったりするのです。
- 長所
- 集中力が増す
- 短所
- 処理能力が落ちる
- トンネリングを引き起こす
- 目標抑制を起こす
- →徹夜明けよりもヒドい状態になる
このことは、「孤独な人」や「貧しい人」にも起こりがちな事態。
孤独な人が、ますます孤独になるワケ
孤独な人は、自分の孤独をどうにかすることのほかは何も考えられないからこそ、うまくいかない。
(中略)
相手の言うことに耳を傾け、世間話をする代わりに、「私は気に入られているかしら?」とか「これがいちばんおもしろい話かな?」ということに注意を集中してしまう。
(by 欠乏の行動経済学)
私も、人付き合いが苦手だったので、たくさん失敗しました。
- 面白くしなきゃと思いすぎて、よけいにドン引きされる
- 文句を言われないようにと気を使いすぎて、不自然になる
- 相手は、自分を嫌いだろうと思い込む
- 人付き合いが、常にストレスになる
友達を作らなきゃと思いすぎて、結局は、友達ができない。
何をしても孤独。
ずっと悪循環でした。
貧しい人が、いつまでも貧しいワケ
欠乏のことで頭がいっぱいだから、思いがたえず欠乏にもどってしまうから、生活のほかの面に気が回らなくなる。
(by 欠乏の行動経済学)
貧困に苦しむ地域でも、たくさんの実験を繰り返したそうです。
でも、どんなに教育を与えようとしても、続かない。
客観的に見ると、「意欲がない」「努力しない」「怠けている」ような姿に見えてしまう。
けれども、本人の問題ではなく、「欠乏」が引き起こしたものだというのです。
貧しい人たちの処理能力が劣っているのではないと、断固として言いたい。
(中略)
欠乏による負荷をかけられた頭脳は、もともと無能な頭脳と勘ちがいされやすい。
(by 欠乏の行動経済学)
しかも、それが本来の姿だと思われてしまい、「怠け者」扱いされるんですね。
あの人が、いつも冷たいワケ
心に重荷があるときは、笑顔で親切にすることさえ難しい。
(by 欠乏の行動経済学)
たとえば、ちょっと感じの悪い人が周囲にいるとき。
- 上司の機嫌が悪い
- 父親が、いつも怒鳴ってくる
- 母親が、話を聞いてくれない
- いつも私を無視してくる◯◯さん
「欠乏」に心をとらわれているだけ。
この人たちは未熟でも思いやりがないわけでもなく、ただ重い負荷をかけられているだけである。問題は人ではなく、欠乏している状況なのだ。
(by 欠乏の行動経済学)
もちろん、自分に対しても。
「欠乏心理」を知れば、思いやりの心を向けるきっかけになると思います。
誰も悪くない。
欠乏によって、処理能力が落ちてしまっているのです。
相手(自分)は、徹夜明けよりも悪い状態なのだと思うこと。
頭が働かないのは当たり前。
コックピット問題を思い出しましょう。
「心」ではなく、「仕組み」に目を向ける
1.「やる気」に頼らない
いつも挫折を繰り返していませんか?
- 将来のために、高額スクールに通うと一大決心した
- ダイエットのため、運動しよう! と決心した
- 英語を勉強するぞ! と決心した
その決心、どれくらい続いたでしょうか。
欠乏心理を知れば、自己嫌悪は必要ないことがわかってきます。
「やる気のない人を置いていく」仕組みがオカシイ
プログラムの構想が、人は十分やる気があればミスをしないはずだという前提に経っている。そこには時間どおりに授業に来ることさえしない人は関心がないにちがいないのだから、訓練に「値しない」という暗黙の了解がある。
しかし欠乏の心理を踏まえると、このようなミスはごくありふれたもので、本人にどんなにやる気があっても不可避とさえ言えると予想できる。
(by 欠乏の行動経済学)
「やる気のない人は置いていく」というのが社会通念。
だから、他人を責めたり、自分を責めたりしてしまうんですね。
人を責めるのは、間違っています。
なぜパイロットの操作ではなくコックピットの設計を見ないのだろう? なぜクライアントの弱点ではなくプログラムの仕組みに目を向けないのか?
(by 欠乏の行動経済学)
これは、教育にたずさわるとき、部下を育成するとき、家庭でのコミュニケーションなど、どんなときにも心がけたいところですね。
ストレスの大きい人は、処理能力が落ちている。
だから、「能力」の問題にしない。
人に、多くを求めない。
2.過失を許容する
「不可避な事態」は、誰にも起こりうる
挫折するときって、こんな感じではないでしょうか。
あなたは目の前のことに疲れきって打ちひしがれ、たとえ研修に行っても何も頭に入らないだろうと思う。それから二~三週間が過ぎた。あなたはまた一回授業を欠席した。そして出席しても前ほどよく理解できない。結局、いまは無理なのだと判断する。
(by 欠乏の行動経済学)
いわゆる、目標の前に立ちはだかる「障害」。
このことを想定しておかなければ、何度も挫折を繰り返します。
だから目標設定のときには、「障害」も視野に入れることが大事だと言われるんですね。
許容すれば救われる
過失を許容することは、貧困者がみずからやると決めたら確実に救われるようにする手段なのだ――そして実際に大勢が救われる。過失が許容されると、自分が注ぐ努力と直面する状況に合ったチャンスを得ることができる。
(by 欠乏の行動経済学)
- 注ぐ努力
- 直面する状況
この2つを考慮に入れたうえで。
やると決めた人が「確実に救われる」ようにすること
これが、継続させる仕組みづくりのコツです。
「やる気」「意欲」「情熱」を求めるのは、やめましょう。
3.仕組みを考える
パイロットは失敗することもあり、コックピットはそのような失敗を抑制できるような賢い構造にする必要がある
(by 欠乏の行動経済学)
では、具体的には何ができるでしょう?
小さなことで言えば。
- 必要なものを手の届く範囲に置く
- 「取りに行く」能力を節約できる
- 「探す」能力を節約できる
こんなことでも、いいんです。
整理整頓するだけでも、違いますよね。
「考えねばできない」ことを、徹底的に減らしていくんです。
- 「考える力」の徹底節減!
避けられるものなら、躊躇せず避ける
たとえば、落ち込みやすい人なら……
- 落ち込んでしまう要因を遠ざける
- ストレスの多い場所に行かない
- ストレスを与える人に会わない
- 視界に入れない
- 落ち込む暇をなくす
- 打ち込める趣味を見つける
- 運動してみる
誘惑の多い環境で「我慢する」こと自体が、体に悪い
「我慢できない自分が悪い」のではなく。
「我慢する必要がない」環境にするほうが最善。
しかも!
イヤな同僚によって悪化したストレスは……
回復に22ヵ月かかる
とも、言われているんです。
休職・退職・転職・引っ越しも、立派な解決策のひとつ。
なお、個人的に、勉強を続けるために試みたことは、こんなことです。
- 机と椅子を新調
- 座るだけでスイッチが入るように
- パソコン台、iPadスタンドの購入
- 「見やすい」だけで作業が変わる
- 手の届く場所に給水ポットを置く
- 喉が渇くと勉強が続かないから
- 光の目覚まし時計を購入
- 音のアラームは負担がかかる
- 光アラームは体にいい
- サイクリングマシンを近くに設置
- 頭が疲れたら運動でリフレッシュ
小さなことですが、ムダな能力の節約になっていると思います。
コックピットのレバーが改善されて、熱心なパイロットが力を発揮できるのと同じ。処理能力への負荷による避けられない小さな失敗で、懸命の努力が水の泡になることがないようにしているのだ。
(by 欠乏の行動経済学)
努力を水の泡にするものは、頭に負荷をかける「仕組み」にある。
「やる気」や「意欲」を問題視するのではなく、環境設計を考えよう。
まとめ
- 常に「コックピット」問題を考える
- 人的ミスはない、仕組みにミスがあるだけ
- 問題は「人」にはない! と心に刻む
- 欠乏は、トンネリングを起こす
- 目標抑制する
- 処理能力が悪化する
- 孤独な人は、ますます孤独になる
- 貧しい人は、ますます貧しくなる
- 時間のない人は、ますます時間がなくなる
- 複雑なことを考える余裕はない
- だからこそ、心のアプローチよりも、物理的アプローチを
- 「やる気」や「意欲」に頼らない
- 過失を許容する
- 不可避な事態は、誰にでも起こる
- 思いやり設計が大切
- 仕組みを工夫する
- 「考えずにできる」=自動化を増やす
- 処理能力の大幅節減
- 環境設計を十分に整える
- 避けられるストレスなら、避ける
「人の問題にしない」とは、今後ますます求められていくと思います。
モチベーションアップとか、やる気を引き出すとか、そういうことではないんですよね。
欠乏心理は、「思いやり社会」の設計にも通じますね。
特に、「欠乏」の短所を考えれば、「我慢」するよりも、避けられるものは避けるほうが、悪循環からの脱却につながります。
- 長所
- 集中力が増す
- 短所
- 処理能力が落ちる
- トンネリングを引き起こす
- 目標抑制を起こす
- →徹夜明けよりもヒドい状態になる
自己改善がうまくいかないときは、環境改善を検討してみてくださいね。
まちがわないこと、あるいは行動を改めることを要求する代わりに、コックピットを設計し直すこともできる。
(by 欠乏の行動経済学)
挫折の一番の要因になります。
目標の「障害」を考えるためには、if – thenプランもオススメです。

なお、「欠乏動機」と「成長動機」という言葉もあって。
「欠乏動機」だと、なかなか苦しい結果になる。
でも、「欠乏」は集中を生む=トンネリングを引き起こすから、なかなか抜け出すのは難しいんですけどね。
いま抱えている問題、すべて「欠乏」によるものじゃないですか?
欠乏によって、人間関係も、経済状態も、変化してしまうんです。
難しいですが、成長する方向へと、切り替えていきたいですね。
参考図書